我々旅行業会は、航空会社であってもホテルであってもツアー会社でも、形の見えない「体験」を商品としています。
手にとって品質を確かめられる電化製品のような商品とは違い、旅行商品は購入前にお客様の心をどれだけ打てるかで勝負が決まります。

最大の武器となるのが「体験談」であり、なぜ体験談に注目して、かつ導入をすべきなのか、旅行業界に焦点を絞ってお話をしていきます。

体験談は超強力な無料広告

はじめに:体験談があれば広告は一切いらない

京セラの創業者である稲盛和夫さんは難しい、できないと言われた商品の開発を幾度もの失敗を重ねて実現されてきました。著書「生き方」では、「カミソリのように、手の切れるような商品を作る」と表現されています。

本当にいい商品、サービスをお客様に届けていれば、一人のお客様がもう一人のお客様を紹介し、そのお客様がまた一人紹介してくれて、というように成長を続けていけます。
口コミを「Word of Mouth」と英語ではいうように、利用してくださっているお客様から生まれる口コミの力は想像を超える効果があることがあります。

良質な体験談を多く持つ商品であれば、極論として広告はいりません。広告を支払わなくても、供給を上回る申し込みが入ります。
現地体験における体験談とは、(PR面では)何もしなくても集客をしてくれる、最強の集客ツールです。

従来のマーケティング

従来、旅行業界のマーケティングとは主に広告による集客がメインでした。
新聞の折り込みチラシや電車の広告、テレビCMなどですね。
ハワイ は今も昔も、有名広告代理店を介した大規模メディア戦略を実施していますが、そういった売主発進型のマーケティングがメインでした。

一部の国や地域の政府が観光戦略を掲げ、観光局などを立ち上げて予算をしっかりと取っている地域には、日本の広告代理店もつき、日本人旅行者を抱え込んだという構図です。

情報源が少なかった時代には、旅行者であるお客様の脳に刷り込みするような広告戦略が有効だったと思いますが、今は情報は自分から取りに行く時代、しかも情報は無料で、無限にあります。お客様の旅行計画の方法に変化が生まれた結果、メディアを使った旅行会社・ツアー会社による発信型のマーケティング は衰退していると言えます。

マーケティング4.0、そして5.0へ

アメリカの経営学者フィリップ・コトラー(Philip Kotler)は”マーケティングの神様”と呼ばれ、マーケティング の4Pなど画期的な研究結果を発表してきた権威です。そのコトラーが2010年代のマーケティング を「自己実現のマーケティング」と呼びました。

先進国に限った話にも私は思えますが、それでも昔と比べて資産に恵まれている我々は、「家電の三種の神器」は持っていますし、なんなら本当に神器と言えるくらいの機能の高級家電でさえネットでポチっとするだけで、並ばずに買うこともできます。

そのような時代では、自分が求める人生の品質に近付けさせてくれるものに消費をするという考えがマーケティング4.0です。

そう考えると、旅行がまさに重要な消費対象ではないでしょうか?旅行は、平和産業であり、なくても困らないけど、あると人生をより豊にしてくれますよね。
この「なくても困らないけどあると人生が豊かになる」というのが今の時代(マーケティング 4.0)に求められているものなのです。

コトラーは2021年1月に新著となる「マーケティング5.0」を執筆しました。まだ日本語訳は出ていないですが、アフターコロナでの消費者心理をどのように捉えているのか大変興味深く、筆者も近々英語の原書を読み進めてみたいと考えています。

良い商品はお客様によって推奨される(5A理論)

コトラーはマーケティング4.0の著書の中で、デジタル時代に新しいカスタマージャーとして5A理論を提唱しました。

・認識(aware)
・印象(appeal)
・調査(ask)
・購買(act)
・推奨(advocate)

購入した商品や受けたサービスに感動したお客様はその商品のファンになり、次々と自分の知り合いやSNSを通じて推奨してくれる強力なファンになってくれるというものです。

カスタマーサポートの世界で最近話題になっているNPS(ネットプロモータースコア)もこの考えに基づいていると感じますし、消費者としても身に覚えのある理論ですね。

体験談は、調査・購買・推奨全てに関わるツールです。
そう、体験談一つで5Aのうち3つもカバーできるんです!

現地体験のゴールはリピーターや紹介者を増やすこと

5A理論を見るとゴールが「推奨」にあることがわかると思います。
購買、つまりツアー・アクティビティへの予約はゴールではありません。予約して参加したお客様が思わず友人・家族・その他ユーザーへ共有したくなるような旅行を商品化することがゴールです。

現地体験事業者の皆様は、推奨者数を増やすことをゴールに据えて、体験談ツールを活用しましょう!

体験談から生まれる4つの効果

体験談を集めることで得られる効果の中で、現地体験事業者が実感でき、更なる売り上げ拡大につなげることができるメリットが4つあります。
それぞれ見ていきましょう!

お客様の悩み・疑問を解決する

お客様はそれぞれ異なった期待を持って現地体験を探していますので、すべてのお客様の要望を自社サイトや予約ページに記載することは不可能です。
同じツアーでも、夏に参加する人もいれば、冬に参加する人もいます。夏に参加した人の中でも、一人旅から家族旅行まで形態も違いますし、参加当日の天気や気温も違います。

そういった異なるニーズに対する解決策になるのが「体験談」なのです。
体験談には、実際に参加したお客様のリアルな声が投稿されています。投稿者を見れば、どういった人なのか分かったり、参加日の情報を探せば、自分たちの参加する日の条件に近いのかが分かります。同じような体験をした過去の参加者による情報を集めて分析・判断することができるのが体験談の強みですね!

価値に見合うか客観的な判断ができる

購入金額が購入者にとって「安くはない」と感じた場合、体験談やレビューサイトを見て情報を得ようとしませんか?逆に消費財や食料などは体験談に頼ることはありませんね。

下図はインターネットショッピングサイトを対象に、買い物をする際にレビューをどの程度参考にするのかを集計したデータです。
見てわかるようにすべての年代で、6割以上の利用者が体験談(レビュー)を購入の際の参考にしていることがわかります。

もし同様のアンケートを「企業の製品情報ページを参考にしますか?」という問いにしたら、このような結果は得られないのではないでしょうか。

物が溢れている現在は、企業が発信する情報を消費者は鵜呑みにはしません。例え正しい、ファクトだけを正確に発信している企業だとしても、消費者心理として、第三者の意見が欲しいのです。

総務省. “第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~”.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc114230.html

現地体験は価格的にも、時間消費の観点からも安い買い物ではありません。
大切な買い物だからこそ、体験した旅行者によるレビューが決め手になるのです。

SEO効果が上がる

事業者側にとって、一つ分かりやすい体験談のメリットとしてSEO効果が上がることが挙げられます。サイトの構成にもよりますが、体験談ページをGoogleのインデックス対象としたり、キーワードがロボットのクロール対象になるように作っていれば、体験談が投稿されればされるほど、SEO効果が上がることになります。

毎日、ツアー・アクティビティの品質を高めることにさえ集中していれば、お客様が勝手にSEOを担ってくれる、と考えると素晴らしいことではないでしょうか?

お客様からの意見をもとに次の企画を考える

体験談をアンケートとして活用して、品質改善や新しい旅行企画のネタに使うことができます。
お客様の中には、面と向かってNoや悪いことは言えない人方もいらっしゃいますので、ツアー当日のアンケート結果は鵜呑みにはできません。
体験談には、良いこと悪いことを比較的赤裸々に書いてくださりますので、事業者にとって宝の山という表現がピッタリかもしれません。

低い評価は品質改善のために真摯に受け取り、ご要望は商品企画のアイデアとして使うことができます。

バイラルマーケティング

思わずシェアしたくなるような体験を届けよう

バイラルマーケティングという新しいマーケティング用語が生まれました。バイラルは英語ではVirus、つまり「ウイルス」を意味しています。すごいマーケティング用語ですよね!
ウイルスのように、広く拡散(感染)するマーケティング という意味で、素晴らしい体験、感動によってSNSなどで共有され、人気が出るという戦略です。

現地体験の戦略に必要なのはこの、バイラルマーケティング
反対に、芸能人やインスタグラマーなどを起用して宣伝することを「バズ・マーケティング」と言います。「バズる」はここから来ているのでしょうか。(どちらが先かはわかりませんが!)
観光局など大きな組織であれば、バズマーケティングによって地域を売る活動は大切になります。
しかし、旅行会社やツアーの催行会社という小さなマーケットの中で活動している企業がバズ・マーケティングを行うのは費用対効果が悪く、一時的な売り上げにしかなりません。
「思わず共有したくなる体験」をプロデュースし、長く愛されるツアーを作ること、つまりバイラルマーケティングを意識することがタビナカ事業者には必要です。

体験談がバイラルマーケティングの好循環を生み出す

旅行業界においては、バイラルマーケティングを行う最善の手段が「体験談」です。

5A理論で表されているように、旅先で何をするかの「調査」を助け、「購入」の決め手になるような情報を提供して、参加後の感動を他者へ「推奨」するのが体験談の役割になります。

今、予約が多く人気の現地体験にはしっかりとリピーターが生まれていますか?
参加してくれたお客様が友人を紹介してくれたり、口コミサイトでレビュー投稿をしてくれていますか?

売上が好調でも、「推奨」のゴールが達成できているデータが取れなければ、一時的な「運」なのかもしれません。そうならないように、高い評価の体験談を増やすように、努力を重ねることが売上を上げる近道となります。

目標体験談数や体験談の増やし方

体験談の目標獲得数は毎月最低1件

1件でいいの?と思われるかもしれません。しかし、1件からで大丈夫です。
1つの現地体験に対して、毎月新しい体験談を1件獲得することをまずは目指します。
数も大切ですが、重要なことは現地体験が毎月稼働していて参加者がいるという事実をPRすることです。毎月参加者がいて、催行されているという安心感を感じてもらえれば、予約に繋がる確率がグッと上がります。

インセンティブで投稿数を増やす

体験談を増やすことを目指すならば、割引などのインセンティブを参加者に与えることが一番です。

Nutmegにはクーポン発行機能があるので、次回参加時に使えるクーポンと体験談を引き換えにしたり、体験談投稿後に連絡をすれば参加料金がキャッシュバックされるというものでもいいでしょう。

本当はお客様が感動して能動的に投稿してくれるのが理想ですが、そのようなお客様は投稿者の1割程度に過ぎません。多くのお客様は労力を使ってまで体験談投稿をしてくれませんので、体験談を急いで増やしたいならば何らかのリターンを提示するのが効果的です。

まとめ

この記事では現地体験で体験談がどのように事業者を助け、売上に貢献するのかを、近代マーケティング理論や旅行者の心理的行動の観点から説明しました。

旅行者にとって、体験談は信頼できる情報源です。過去の参加者の感想を自分なりに置き換えて考慮して、予約に移ります。

事業者は自社サイトでもOTAのような体験談機能を作ることが、バイラルマーケティング戦略を行う必須条件になります。

次回以降の記事では、Nutmegの新機能である体験談について詳しくご紹介していきたいと思います。